畑 正憲さん 作家

1997年10月-月刊:介護ジャーナル掲載より

ムツゴロウ王国も20数年。
夢は300人の子どもたちと馬で林を疾駆すること。

1968年、『われら動物みな兄弟』で日本エッセイストクラブ賞受賞。1978年、『ムツゴロウシリーズ』で菊池寛賞受賞。北海道東部の太平洋に面した敷地150万坪以上にもおよぶムツゴロウ王国の国王である畑さんは、700以上の動物、人間たちとともに暮らす。王国の運営資金をひとりで切り盛りしながら全国各地、時には海外へと飛び回る畑さんに、王国や今後の夢について伺った(当時62歳)。

◎子どもを安全に乗せられる馬を=作るには15〜16年かかる

ムツゴロウ王国はテレビなどで拝見していて、とても憧れるものがあります。でもなかなか、ああいうことはできませんね。
「ええ、都会でも農村でもしにくいことを僕はやっているんです。庭があったら放し飼いできるかといったら、それは放し飼いの模擬でしょう。僕の場合はべらぼうな広さの土地で暮らしてますから、自由に放し飼いができるんです。そういう点で自分の理想を追求したんで、日本だけじゃなく、ブラジルのような広い国に行ってもうらやましがられます」
今の王国は、20数年来やってこられて、畑さんの理想にある程度近づけました?
「いえいえ、まだまだ。基礎が一段できたというぐらいかなと思っています。生き物にかかわっていると、簡単なことをやるのに10年じゃ足りないんです。たとえば子どもを安全に乗せられる馬を作ろうと思ったら、1頭の馬から子どもを取って、またその子どもを取って、……と8代かかるんです。それだけで15〜16年かかりますから、やっと、基礎が少し固まってきたかなあというところです」
究極の王国の姿は?
「究極なんて考えていたら、苦しくてやっていけないですよ。よくいうのは、馬が300頭になったら、300人の子どもたちと一緒に林を疾駆してみたい。あえて究極というならそういう絵が浮かびますけど、それを実現するのは非常に大変でしょうね」

◎動物を薬のように使わないでほしい=ふれあいは生活の中にあるもの

体験教室、乗馬教室は全国からかなりの人数を受け入れておられますね。「1万人教えています。今は2〜3日来て帰っていくという形ですが、いずれは1カ月単位で来られる人だけを受け入れるようにしていきたいんです。施設もいりますし、いつかなあ、100年後かなあと思っていますよ」動物を知ってもらうのに、それぐらいの時間は必要だと。
「自分の筋肉が変わったり、血流が変わったりするのに、最低1カ月はいるんです。それから、1カ月子どもをそういうところへ預けるというのは、親御さんたちの決意とか、もっといえば社会のあり方が変わってこないといけない。僕は子どもたちに大きな生き物に触れてほしいんです。大きな生き物を自分の力で動かせるようになってほしい。それは、大きな力になると思うんです」
最近老人ホームでもアニマルセラピーなどが進んでいますね。「ないよりはいいです。効果もあります。でも基本はね、年寄りは孫とか子どもたちと住むのが一番いいんですよ。しかも、セラピーとかいって、動物を薬みたいに使うのはやめてほしい。そして、ボランティアが持ってくる動物じゃなくて、自分のところで飼われた動物が、家族や庭とともにいることが人間にとって必要なことなんです。ふれあいというのは、人間の生活の中でごく普通にあるものです」
施設にも自分のペットを連れていけるような環境が整えばいいんですが。
「それが一番いいと思いますよ。施設で暮らしている人が全員で力を合わせて、小さい時から育てるというのがいいと思います」

◎何かひとつのもので健康にはならない=おいしく感じるものをしっかり食べる

今、日本は大変長寿社会になってきていますが、畑さんの老後の人生観は。
「20歳の頃は50歳まで生きれば十分だと思っていましたけどね、50歳になったら60歳まで生きたらどうしようという気持ちになってね。今は62歳なんですけど、自分でびっくりしてます。62歳で自分がこれだけ忙しく仕事をしているということは、10年前には夢にも思っていませんでしたね」
健康面では何か注意されていますか。
「健康に注意しないことがモットー。健康食品とか、何かひとつのもので身体の機能が良くなるもんじゃないということを僕はよく知っていますから。それよりも、目の前にある、おいしく感じるものをしっかり食べていくことが大切だと思いますよ」