小室 等さん 歌手

1997年02月-月刊:介護ジャーナル掲載より

ボランティア歴30年。「何も変わっていない障害者問題」を通じ豊かな社会、広い世の中を思い知らされる

フォークの元祖、小室等さん。(当時53歳)デビュー30年の今も、年間80回のコンサートをこなす現役である。
5年ぶりのCD「時間へのパスポート」には、尊敬する作曲家、故武満徹さんゆかりの曲や、チェルノブイリ原発事故で汚染されたベラルーシ共和国訪門の体験をつづった曲も収録された。
ボランティア歴も古く、福祉問題に一家言持つ。

◎ボランティアは大学時代から「できない人」も含めて社会

小室さんのボランティア活動は大学時代にさかのぼる。
まだアマチュアだった頃、「ギターの弾ける人間として」声をかけられ、養護施設のキャンプに参加したのが始まりだった。その施設とは今もつきあいがある。
以後もコンサートに来てくれた施設の職員と友達になり、そのつきあいの延長でボランティアを行い、そのネットワークが全国に広がっているという。
長年の活動を振り返ったとき、小室さんは「障害者に関する問題は、基本的なところでは何も解決されていない」と話す。それは障害者が、普通に生活できていないからだ。
「世の中というのは、何かができるということが基準になって仕立てられていますが、できないことが日常となっている人たちも生きているわけで、それも含めて社会なんです。
そういうことを認識しないと豊かな社会とはいえないと思うんです」。そして、自分はごく一部の社会でしか生きてこなかった、世の中はもっと広いものだと思い知らされたという。
「そういうことを知ると、僕自身がどんな歌を作ってどう歌うのか、歌うときのスタンディングポイントを考える上でも、ずいぶん影響されましたね。それは、その人たちのために歌うとか、そういう意味ではありませんが」。

◎街全体の相互扶助システムを「介護」に代わるいい言葉を

障害者や老人問題を考えることは、やがては身体の自由がきかなくなる、近い将来の自分自身について考えることにつながると小室さんは語る。
奥さんとも、互いにどう年をとり、介護し合えるのか話し合っているという。
「医療的なことも含めて街全体が、相互扶助できるメカニズムを作らないといけないのに、昨今の官僚のぐちゃぐちゃを見るにつけ、あてにはできないなと…。となると、個人レベルでいかに補えるかですが、深刻な問題です」と、少し顔を曇らせた。
小室さんはまた、「介護という言葉には、やってあげるというイメージがあって、良くない」と話す。「お互いが助け合うのは当り前のことなのに、介護される側が弱くて、それを助ける強い人がいる、そんなイメージがあるんですね。
介護する方だって、することで豊かになるんですから」。介護に代わるいい言葉を見つけられるだろうか?

◎音楽はマンツーマンなもの療法はセラピストのあり様が肝心

注目されている音楽療法については、「セラピストのあり様が問われる」と考えている。なぜなら音楽は、「きわめてマンツーマンなものだから」だ。
「その人が聞いてきた音楽があるし、好き嫌いがあるでしょ」。
セラピストがいいと思っても、患者の心に響かなければなんの意味もない。「しかしあるときは、その音楽が人と人を結ぶんですね。人の心を癒すという点では、原則的には大いに効果があるとは思いますよ」。
例えば年齢別に、症例別に、心や身体を癒してくれる「小室等の音楽」がCD化されるなんてことがあったらいいな…。