石津 謙介さん ファッションプロデューサー

1997年07月-月刊:介護ジャーナル掲載より

健康なんて考えない。平均寿命でもう十分波乱の人生も、いいことだけを思い出して

メンズファションブランド『VAN』の創業者で、一大ブームとなったアイビールックの生みの親として、広く知られている人である。
85歳(1997年当時)の今も現役として活躍中だが、過去には30年近く続けた『VAN』の倒産を経験するなど、波乱に富んだ人生を歩んできた。
「平均寿命をとっくに過ぎたから、いつ死んでもいい」と、明快な死生観、健康観を語ってくれた。

◎何もしないのが健康法村役場での宿泊も楽し

高齢にもかかわらず石津さんは、とてもダンディであり、元気な印象を受ける。
とっておきの健康法があるかと思いきや、「なんにもやってないんですよ。
この頃になってようやく、散歩するほうがいいかなと思ったりするぐらいで、健康のことなんて考えたことないですね」と意外な答えが返ってきた。
睡眠時間もメチャクチャで、眠たければ寝る、そうでなければ起きているという主義。
「健康でありたいと思うのではなくて、健康のことを考えないのが健康法かな」と、とても大らかなのである。
石津さんはまた、いたって好奇心旺盛である。
最近は特に、全国各地の行政から“これからの生き方”“シルバーエイジのおしゃれ”といったテーマで講演を依頼されることも多く、頼まれればどこへでも出かけて行く。
「それがたとえボランティア講演でも嬉しいんです。いろんな所へ行けるから。交通費もくれるし、宿舎も用意してくれる。その宿舎が、村役場の宿直室だったりしてね、おもしろいなあと思うんです。だって、普通じゃそんなとこに泊まれないもの」。
なんにでも興味を持つ、おもしろがる、それが若さを保つ秘訣なのであろう。
ただ「仕事は好き」とおっしゃる。「だから元気でいられると思います。やることがなくなれば寂しいでしょうね。そうなったらどうしようかなということは、考えますよ」。

◎幸福な介護があればいい平均寿命ならばもう十分

“介護”ということに対して石津さんは、幸いにして「大変だ、苦労した」という経験を持っていない。
「祖父母もいましたが、当時は家庭介護が当たり前の時代でしたから。この『介護ジャーナル』を拝見していて思うのは、介護する人、される人、どちらも幸福であるといいなと思います。そのためには、よく話をすることでしょうか。
特に介護される人の気持ちですね。何が不足なのかといったことです。
1人ひとり、事情が違いますから、一概にはいえませんが、する側はどう努力し、される側はどう受け取るか、そこのところの問題でしょうか」。
石津さんは今、「いつ死んでもいい」ときっぱり話す。それは「平均寿命を生きれば、もう十分である」という考え方があるからだ。
「長生きもけっこうだけど、ただ生きているだけの毎日がどうなのかを問いかけるべきだと思っています。
無事にこれまで生きてこられたことを感謝して、平均寿命以上を無理して望まないことです。
僕は元気なうちに死にたいんです」。
すでに10年前に献体登録をすませ、尊厳死協会にも入った。また、葬式も戒名も不要という遺書も作ったそうだ。
明快で、潔い考え方に明治の気骨を見る思いがした。

◎倒産以後、世間はあったかかったいいことだけを覚えておく

人生は25年区切り、4毛作という石津さんにとって、一番大きなできごとはやはり、『VAN』の倒産だろう。ただその時も、ひどく落ち込むことはなかったという。
「倒産は自分のしたことだから、どこにも文句はいえない。
2,500人いた社員をどうしようかと、いろんなところへ頼みに行って、それに5年かかりました。
けれど、そんな僕に対して世の中はあったかかったですよ」と振り返る。
4毛作の最終段階である今が、もっとも楽しいという。
「いやなこと、悲しいことは全部忘れました。嬉しいこと、いいことだけを覚えておくんです。それでいいじゃないですか」。
長生きの極意、ここにありである。