大橋 巨泉さん 司会者・タレント

1997年09月-月刊:介護ジャーナル掲載より

老後への認識と老害が日本をだめに取り入れたい欧米の常識

『11PM』、『クイズダービー』といった人気テレビ番組の名司会者として、古くは『ハッパフミフミ』、『本当のホンモノ』などヒットCMの生みの親として、その多才ぶりで知られる大橋巨泉さんは、7年前の56歳の時、セミリタイアを宣言。
1年の大半を海外で過ごし、ゴルフ三昧の生活を楽しんでいる。
40代から老後のことを考えてきたという巨泉さんからみると、日本の現状、将来は大いに憂うべきものがあるようだ(当時63歳)。

◎老後への投資は若いうちから欧米の常識を見習うべし

春と秋は日本で、それ以外の8カ月間はアメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドを行ったり来たりという、なんともうらやむべき生活を送っているが、「今、外国で経営しているみやげ物屋も、これまで何回も倒産ギリギリまでいったし、何より40代から老後のことを考えてきましたから」と、現在の大橋さんがあるのは若い時から人生設計をしてきたからだと強調する。
「他の芸能人がベンツに乗ってる時、僕は国産車を買い替えずに乗ってきたし、節税もしたし、老後への投資をしてきました」。
それはアメリカ、カナダの友人に影響されて始めたことで、外国ではごく当たり前のことだとか。巨泉さんの住む4カ国の主要新聞には毎日のように、年金やリタイア後の経済をどうするかという記事が掲載されており、それも収入の何%を銀行預金に、何%を株にと、極めて具体的に記されている。
「ところが日本はまったく違うよね。
銀行に預けたって雀の涙ほどの利子しか付かないから、健全な投資ができない。そういうことは国とか会社がやるもんだと思ってる。
つまり個人主義じゃないわけ。僕は民主主義の基本は個人主義だと思ってるから、日本に民主主義はないと思ってます」と手厳しい。
「外国が常識的に老後の設計は自分でといってる時に、日本はいい大学に入って官庁か大企業へ、すると老後は大丈夫という図式で走ってきた。
でもそれは、ごく一部の強者の論理でしょ。大半はそうならないし、子どもの数も減ってるし、終身雇用だって崩れていくのにね」。
巨泉さんはずっと一匹狼。
会社もなければ、年金もない。だから自分の生活は自分で守ってきた。
何が起こるか予測できない時代だから、サラリーマンといえども、高齢社会や老後を、自力で乗り切る覚悟は持っておきたいということである。
老後の住環境についても、巨泉さんは準備を怠らない。
現在、外国の家をみんな平屋に建て替えていっているという。
そして、老後に暮らしやすい国として「オーストラリアとかニュージーランドといった暖かい国に住みたいね」と語り、「日本には住まない」ときっぱり。

◎老害は百害あって一利なし早期引退は高ステイタス

巨泉さんが憂うもうひとつの日本の現状に“老害”がある。
「(元首相の)中曽根さんにしても、80歳なのに、最後のご奉公なんていってる。アメリカじゃ考えられないことですよ」。
アメリカの大統領は2期8年しかできないから、あとは引退するだけ。
「この間も、歴代の大統領が集まってボランティアしてたでしょ。
だから引退しても、ミスタープレジデントと街で声をかけられ、尊敬されるんです。
日本の元首相たちも、やめて、街でごみ拾いでもしたら尊敬されるんですよ」。
外国では、“自分が退くことで若い人にポストを譲ることができる”と、引退を積極的なものとしてとらえているという。
「それは、早くリタイアするほどステイタスが高いからです。体力があって楽しめるうちにリタイアしなきゃ、つまんないよと欧米人はいいますよ」。
話題の行政改革委員会についてもひと言ある。
「委員会のメンバーを見ましたか。
60代、70代の人ばかりですよ。あれは、2015年、団塊の世代が65歳を迎える時のためにやってるんです。
その時、今60代の人はいくつになりますか。もっと若い人たちにやらせなきゃだめです。
行革を成功させた国、ニュージーランドなんかは、30代、40代が中心になってやったんです。当たり前ですよ。
イギリスの首相は今、43歳。あれが正しいんです。
そんなこと考えてると、日本の将来は暗いと思いますね」。
憂うべき国、日本。その未来をどうするか、それは私たち1人ひとりに問われている。