アグネス・チャンさん 歌手

1995年08月-月刊:介護ジャーナル掲載より(当時39歳)

「ボランティアはポップスのノリで 社会の弱いところを力を合わせ補う」

「ひなげしの花」で、日本でのアイドルデビューをして23年になるアグネス・チャンさん。
妻となり、母となり、留学を含めて3大学を卒業するなどその活動ぶりは常に注目を集めてきた。
「愛と平和と自由」をテーマに福祉、老人問題をやさしく語る。

◎大学教授やデザイナーも、幅広い分野で活躍

タレントとしてテレビ、ラジオ出演のかたわら、チャリティーコンサート、大学での講義、原稿書き、講演のほかに、5年前からはアグネスブランドとして親子のペアファッション「Dear Agnes」を発表し、そのデザインも担当するなど、その仕事ぶりは多岐にわたる。
本業の歌手では、世界の童謡と子守歌を集めたCD全集が100曲を数え、その多才ぶりに驚くと、「私は貧乏症なんですよ、きっと」と謙遜。趣味は「釣り、花、土いじり」と意外にも渋い答えが返ってきた。

◎プロが仕切るボランティア生活に根ざしたシステム確立

社会の弱いところをみなが力を合わせて補う——アグネスのボランティア観だ。
そして、その中にはボランティアのプロが必要という。
「アメリカの団体には正社員がいて、何曜日に何時間使えるという人を『○○さんの家で○○をしてください』という具合にうまく配してゆくわけです。
こんなシステムが日本にあればもっと参加しやすくなりますよね。
ゼロか百かという参加の仕方ではなくて、もっと気楽に、演歌のノリじゃなくポップスのノリでできればね」カナダで長男を出産した直後は、行政から派遣されたボランティアが手伝いに来てくれて、とても助かったそうだ。
「ニュージーランドには母親のかけ込み寺みたいなものがあって、子育ての話をしたり、子供を一時預ってもらえるんです」日本と違って生活に根ざしたきめ細かなボランティアシステムが確立されているようだ。

◎老人ホーム入居はOKでも今のままじゃイヤ

安心して年をとれる、子供が産めるというのは社会が保障すべき最低限のことだというアグネス。
「私は老人ホームに入ることに抵抗ありません。
もし一人になったら同年代の人と話がしたいし。
でも今の日本の老人ホームはイヤ。
大部屋で荷物は限られてるし、年中寝まきだし」だから将来、思うような老人ホームがなければ、自分で建てたいと思うほどだとか。
「老人介護も24時間看なければならないからつらい。
これだってかけ込み寺のシステムがあれば、楽になると思いますね」少子化に歯止めをかけるには、経済的、精神的なことを含めて親だけでなく、みんなで育てる覚悟が大切だと訴える。
「自分の子だけじゃなく、周りの子もかわいいと思う気持ちです。
将来日本は、子供が少なくて周りの国の手を借りなければいけないかもしれません。
そのときお金だけじゃなく、日本が好きだから来るという人が増えるといいですね。
そうなればこの国の活力は減らないと思います。移民の多いアメリカのように」

香港生まれの中国人で国籍はイギリス。
「私の立場は微妙」とアグネスは言う。
外国人であること、祖国返還の問題…。
「でもそのことをコンプレックスと思わずに、何かのかけはしになれればいいなと。
たとえばアジアに私が出かけることで、いろんな人が親近感を持ってくれたら、私の存在価値があるかなと思っています」社会において果たすべき自分の役割を真剣に考えている人である。

※東京の広尾の新居には、アグネスのお母さんの部屋が用意されているそうです。写真は2階の応接室にて。