淀川 長治さん 映画評論家

1998年03月-月刊:介護ジャーナル掲載より(当時88歳)

必要なことはすべて映画から学んだ好きだから、愛しているから続けられる

神戸の色町・柳原に生まれる。4歳から家族とともに映画を見始め、7歳の時にはひとりで映画館に通った。
『キネマ旬報』『映画世界』への投稿も盛んに行う。
中学卒業後、『映画世界』編集部、『ユナイテッド・アーチスト』宣伝部、『東宝』宣伝部、『映画之友』編集長を経てフリーの映画評論家に。テレビ『日曜洋画劇場』の映画解説は32年目を迎えた。著書も多数。

◎映画から英語も人生も学んだチャップリンにも会えた自分は幸せ者

私の家は置き屋で、6人の芸者さんと家族と暮らしてたの。
女ばっかりで、男はお父さんだけ。
そうするとね、女の人のしぐさとかを幼い頃から見ていて、雨も太陽も、星も、月も細かーく見るようになった。
そういう感性が、ちょうど映画にもってこいだったのね。
観た映画の数は数えきれないね、1年に300本ぐらい観てるでしょ。
そうするとね、それだけ分勉強させてもらったから、感謝だね。
映画が教えてくれることではね、おじいちゃんおばあちゃんの扱い方もよく出てきて、それはどんなに役に立つか。
例えば、おじいちゃんがやけ起こして家出する。やっと警察が探して連れてくるの。
日本だったら家族はみんな「心配かけて!」って怒ったり泣いたりするでしょう。
けれども映画では「お帰り」っていうだけなの。
じいさんは拍子抜けするのね。そしてお兄さんが「じいさん食べ残しのシチュー食うか」っていうの。
そしたら「うん、食ってやる」。で、パクパク食べるのね。
そういう扱いとか、ユーモアたっぷりにおばあちゃんに接する嫁とか。映画以外なんにも勉強してないけどね。
アメリカへ行って昔の映画のことしゃべっていてもね、みんなびっくりするの、よく覚えてるから。
僕をね、「ウォーキングディクショナリー」、「歩く辞書」っていってくれるのね。
アメリカではほとんどのスターに会いました。
僕は幸せですね。大好きなチャップリンとは40分もしゃべったの、ふたりきりでだよ。
こういうことは誰も経験できないよね。
対等に英語で話せるはずないのね、けれどもどんどん、話せたのね。
それは僕が神戸で幼稚園の頃から映画観ておったからね、タイトルが全部原語で出ていて、覚えてたの。
チャップリンの映画の名前も、どんどん英語でいえたの。
だから話聞いてくれたのね。

◎毎月7本の映画評とテレビ解説こなす今いいのはイギリス映画、日本は最低

仕事をしていて疲れることはありません。好きなことだから。
今も毎月7本、映画評書いてますよ。
毎週書いてるのもあるけど、それはうれしいから書くのね。
日経新聞には50回の連載、書かなくちゃならない。
おじいちゃんになっても好きなことは書けるの。
1週間に7本、1日1本映画を観ますね。
観に行けない時や古い映画は、映画会社からビデオを借りて観ます。
夜の11時半頃から1時半頃までかかって観るので、寝るのは3時半頃、起きるのは10時半頃。
いい映画観たら元気になるよ。
生涯を通してのベスト1はチャップリンの『黄金狂時代』ね。
今の日本の映画は最低。感覚がないの。
『HANA-BI』はいいですよ、たけしのね。
それから、『うなぎ』も悪くないですよ。ああいう冴えてるのがいいね。
『失楽園』、最高に嫌い、最低。『東京日和』も。
今いいのはイラン、フランス、一番いいのはイギリス映画ね。
各国の匂いがよくわかるね。
アメリカ映画はスケールだけ大きくなって、そんなんじゃダメ。
つまらない映画を観た時は疲れるね。そういう時は帰ってからべったり寝ちゃう。
歳とともに眼は悪くなってます。
眼医者に行って眼を手術してもらいましたよ。
だって4歳から映画観てるからね。テレビの日曜洋画劇場にも出てるでしょ、88歳でそんな人いない。
年取ってくると「こんにちは、淀川です」ってうまく発音できないかもしれない、でもね、そんなことかまわないものね。
もしそれが恥ずかしかったらだめだね。
たとえば、「ニセ札作り」ってうまく発音できないから「偽造紙幣」とかに変えてしゃべることもある。
愛があるからよ。愛がなかったらしゃべれない、僕は。

◎健康の秘訣は「映画が好き人が好き」いいものを観て若い心を持ちなさい

僕は3つスローガンがあってね、ひとつは“苦労来い”、もうひとつは“他人歓迎”、“私はまだかつて嫌いな人に会ったことがない”。
この3つを私は映画からつかんだんですね。
苦労がなかったら、他人にも苦労がないと思うから、その人は冷たいですよ。
赤の他人、って思ったら、みんな嫌になりますよ。
最期は、みんな好きになることね。
この3つが私の健康のもと。映画も観たらいいですよ。映画はね、時代とともに変わるから、イランのこととかホモのこととか、今はこんなになってるのか、こんなことしていいのか、とかわかるでしょう。
それが若さを与えてくれる。
お寺行こうか盆栽しようか、それもおおらかでいいけどね、もっと気を若くしてほしいですね。
歌舞伎でも文楽でもバレエでもいい、何か感動するものね。何も観ないのが一番いけないね。
ただボンヤリしてたらだんだん年取るよ。
アメリカの言葉で“ヤング・イン・ハート”という言葉があるのね。
日本は年寄りのくせに若造みたいなことをいう、って軽蔑するけど、アメリカでは「おじいちゃんになってもヤングなのね」って尊敬されるの、えらいねって。
そういう気持ちでいたら、長寿になるのね。