二谷 英明さん 俳優

1994年01月-月刊:介護ジャーナル掲載より(当時64歳)

「湾岸戦争をきっかけにボランティア活動はじめる」

今年64歳になる二谷さんも、来年で一般にいわれる高齢者の仲間入りをすることになるが、齢を感じたのは孫の薫子(ゆきこ)ちゃんの誕生の時だそうだ(1994年時点)。
その二谷さんが楽しみのひとつのトローリングより、いまボランティア活動に精力的だ。
現在、日本俳優連合の専務理事、日本芸能実演家団体協議会の理事を務め、新しく「日本国際救援行動委員会」の理事に。
常に問題意識を持った行動には頭が下がる。
二枚目俳優の二谷英明さんが、湾岸戦争をきっかけに国際貢献を自分たちの手でしようと「日本国際救援行動委員会」を設立。
平成3年12月にはカンボジアへ難民救援活動に出掛けるなど、ボランティア活動をはじめた。
とかく芸能人がボランティア活動すると世間は色目で見がち「売名行為だとか自己満足といわれても、ぼくはそれでもいいと思うんです。
自分が行動することによって何人かの人達の生命が助かれば…。
以前に、フランスの撮影チームと一緒に仕事をしたことがありますが、ある女優さんは仕事が終わると、イスラエルへボランティアに行くとか、私はどこそこへ行くといって、それぞれ自分の信念がしっかりしているんですね。
日本のように、みんなで渡れば怖くないという国民は駄目だなと思いますね」有名人であるがために、ボランティア活動は外国の方がやりやすいという。
そこでは、一人のおじさんとして行動できるからだ。
この救援活動は、そのつど大学生や社会人のボランティアを募り、参加者からも寄附を募る本当の意味でのボランティア。
日本の福祉でいうところの「有償ボランティア」ではないのだ。

 

 

 

 

◎趣味は年代ごとに味わいが変わるもの

二谷さん自身、孫の誕生が人生を見つめるきっかけとなっているが、“美しく老いる”ということについては、自分の中にもいろいろな戦いがあるという。
老後はやはり「ぼけたくない」というのが本音のようだ。
ボランティア活動をする以前の二谷さんの楽しみは、旅行にスキューバーダイビング、そしてトローリング。20代、30代、40代とそれぞれの年代によって、同じところに行っても、その土地の感じ方が違うという。
「いま、もう少し時間ができてくれば、若い時に訪れたギリシャや地中海を車で廻ってみたいと思っています。
60代の旅行で自分がどう変わったのか、どいう印象を受けるかが楽しみです」と語る。
また、トローリングも齢とともに変化しているそうだ「一種のスポーツですから、魚がかかるとアングラー(釣る人)一人であげないといけない規則があり、まさにヘミングウェーの“老人と海”の戦いです。
今まで釣りあげた最高は250ポンドのカジキマグロ。これが3年前には4、50分であげていたのが、1時間15分位になってくると少し齢を考えてしまいますよね」

◎老人問題は訴える組織がない

サラリーマンなら55歳で第2の人生設計を考える齢だが、俳優業には定年がなく生涯現役だ。
「まだセリフもおぼえられるし幸せです」と語る二谷さん。
求人広告はおもしろくてよく見るそうだが、55歳を過ぎると警備員の仕事しかなく、自分には全く当てはまるものがないという。
しかし、65歳を過ぎてもりっぱに働ける人がたくさんいるといい「経済的な問題だけじゃなくて、生きがいを感じさせる職場を広げることが必要だと思いますよ。
それに、貴重な経験と技術をお持ちの人が多い。
リクルートはシルバーエイジのリクルートもすべきだと思いますよ」高齢者についての社会の在り方、待遇など腹立たしいものを感じるそうだ。
そのひとつに福祉がある。二谷さんは「日本の福祉は全くだめですね」と厳しく批評する。
いま、一部介護器具の助成制度があるが「器具だけの問題じゃないと思いますね。
お年寄りが自分で全部できるのならいいですが、食事の問題がありますし、介護してくれる人がいない。
寝たきりの老人にベンツやキャデラックのクルマをあげるといってもどうしようもないのと同じです。
それよりも看護婦さんやお世話する人がいて、そこで初めて器具があれば介護できるのですが、人の問題やソフト面についても充実していただきたいものです。
もっと方法論があるように思えるのですが…」また、高齢者に対する国の制度にしても「ぼくは70歳を過ぎれば人間みな平等に扱うべきだと。年金や所得も地位も関係なく、政治献金が何百億とあれば、そんなお金を1カ月50万円なら一律50万円をあげればいいと思います。
バカげた話かもしれませんが、実際にそういう人達を見たり、聞いたりしていると腹が立ちますよ。
それぞれ社会のために永年働いてきた人達に、国が本当に面倒をみるべきです」といったご意見。
これらの老人問題について、だれが、どこに訴えていけばよいのか具体的方法は今はない。
「いま50歳以上の人口はかなりいるはず。
シルバーパワーを全国組織で集めて訴えなければ改善されない。
いっそうシルバー党をつくればいいんですよ」という。
座視するに耐えないという行動派の二谷さんにとって、つぎのアクションがまた出てくるのかもしれない。