池内 淳子さん 俳優

1998年11月-月刊:介護ジャーナル掲載より(当時65歳)

できるだけ家族の手をかけて自然体で在宅介護

明治座に出演しながら、テレビや舞台で活躍する池内淳子さん。
最近では老け役もこなし、NHKドラマ『天うらら』のハツコ役では、介護されながらも自立した意識を持つおばあちゃん役を演じ、人気を博した。
その素顔は、大女優でありながら自然体。
実生活では在宅介護をする側だが、それを苦にしない池内さんならではの細やかな配慮と工夫が生きている。

◎“母らしくない”と退院させ自力でトイレが使えるまで回復

6〜7年前のことだ。池内さんの実のお母さんが82、83歳の時、滑り止め靴下をはいていて自宅内で転び、以来、車いすの生活となった。
骨折は1カ月ほどで良くなったが、見舞いに訪れるたびに様子がおかしいことに気づく。
“母らしくない”と感じ、退院させたところ、てきめんに元に戻ったという。
病院ではおむつをしていたが、退院後は自力でトイレが利用できるまでになった。
こうして池内さんの在宅介護生活が始まった。
池内さんはお母さんと手伝いの女性の3人暮らし。地続きで妹さん夫婦が住んでおり、協力し合って家族介護をしている。主治医に訪問医療を頼んでいるほかは、一切を家族でまかない、デイサービスを利用したことはない。
「別にお願いするものがないんです。
いずれはお願いするようになるかもしれませんが、今のところは私たちでお風呂にも入れられるし」。
もともと池内さんのお母さんは小柄で、体重は20㎏台と軽いため、池内さんか妹さんが一緒に浴槽に入り、膝にかかえて入浴させることも苦ではない。
リューマチや喘息などの持病を抱えてはいるが、いたって健康で、現在88歳。
「まさかこんなに長生きするとは」と本人も驚いているそうだ。
食事は、ゆっくりと普通の食事を自分で食べる。
食欲旺盛で、夜食も食べる。
唇はピンクで、髪の毛は真っ白だったのが、襟足から黒い髪が生えてきたそうだ。
家族介護の甲斐あってか、倒れる前よりも、むしろ今のほうが元気なぐらいだという。

◎少し贅沢をして食器にもこだわり電動リフト付きの車で家族旅行も

介護用品や福祉機器はなんでも進んで試してきた。
使い勝手の良い食器、コンパクトな折り畳みトイレ等々、あちこち出かけて見に行ったり、通信販売のカタログで取り寄せた。
だが、当時はまだ福祉機器が現在ほど充実しておらず、なかなか納得できるものは少なかった。
例えば、6年前に電動リフトで車いすが乗り降りできるバンを、と長年つきあいのあるディーラーに頼んだが、特注品でもメーカー側で受け付けないといわれ、別のメーカーに頼んで作ってもらったという。
その後、以前から愛用していたキャンピングカーも電動リフトで車いすが乗れるよう改造し、家族でちょっとした旅行にも出かけられるようにした。
この2台の車には、万全の体制が整っている。
ポータブルトイレ、医療用酸素吸入器、携帯用ボンベ等。
車いすでも、行動範囲をできる限り制限しないようにという家族の配慮からだ。
古い日本家屋の自宅内も、できる限り改造を施した。
トイレや風呂場など、必要なところには全部手摺を付け、段差には三角の板を置いて、車いすでどこでも行けるようにしてある。
ゆっくり歩行器で移動して、自力で用を足す。
終わったらブザーを鳴らして家人を呼ぶことになっている。
食器にもこだわり、瀬戸物を使っている。
軽いもの、使いやすいもの、そして、できるだけ“いいもの”を探す。
「割れないものは味気なくて。
少し贅沢しないと気が滅入ってきますから。
重いものは膝に置けばいいし、“割れるから使わない”ではなくて、できるんだったら手をかけてあげたいですもの」。
池内さんが介護に携わるのは2度目。
17年前に亡くなったお父さんが脳溢血で倒れた時に、4年ほど在宅介護の経験がある。
当時は主に付き添いの人に介護を頼んでいたが、期せずして、異なる時期の福祉機器やサービスの内容を比較する機会に恵まれたことになる。
「一番悪いのは道路」だと指摘する。
段差は多いし、道は狭い。車いすで外出するのは大変だ。制度にも納得のいかないことが多い。
「助成金制度を知らない人も多いし、重度の人でもほしくても高価で手に入らない機器もある。
よく調べないとわからない。
在宅介護支援センターの看板の字も小さいでしょ。
もっとわかりやすく宣伝すべきですよね」。
障害の程度が軽いとはいえ、1日をベッドで過ごすことが多いお母さんの気分転換には気を使う。
月2回、美容師さんに来てもらい、カットやセットを頼んだり、華やかな寝間着を買ってきて、気持ちを引き立てる工夫をしている。
頭も口もはっきりしているので、家族との会話も良い気分転換になる。
「甥や姪がいろいろなことを話してくれるのが母のためにもいいですね。
母も戦争や人づきあいのことを皆に話してくれて、とてもいい交流になっています」。
ところで、池内さんは仕事で老女役を演じる機会が増えてきた。
偶然抜てきされたNHKドラマ『天うらら』のハツコは在宅介護を受けるおばあちゃんの役だ。歯切れ良いセリフに「気持ちがいい」と視聴者の評判も良かった。
「怒らない親が多すぎるから、けじめをつける意味でもっと怒ってほしい」とファンレターが来るとか。
自分の老後については、「コメントできない」という返事だったが、ふともらした次のような言葉に池内さんの老後観が見える気がした。
「老いるということは自然なこと。
恥ずかしいとか、決まり悪いとかいってられませんものね。
明日はわが身ですから。それは若い人にもいっておきたい」と。