田嶋 陽子さん 法政大学教授(当時)

2001年03月-月刊:介護ジャーナル掲載より(当時59歳)

「女たちよ、“個立”した人間として生きよう!」

『たけしのTVタックル』での歯に衣着せぬ発言で、たちまちのうちに日本全国にフェミニズムの嵐を巻き起こし、女性の意識向上に多大な影響力を与えた田嶋さん。
ライフアーティストの駒尺喜美さんと共同で、もうすぐ静岡県中伊豆町に着工予定である、賛同者同士が自立しながら生活する『友だち村』の構想と、ご自身のフェミニズムのルーツや女性の状況について熱く語っていただいた。

◎生涯現役と自立目指す『友だち村』

「『友だち村』建設地は、暖かいところという基準で選びました。地域の方々とも交流し、地域活性化の活動に参加していきたい ですね」と、明るく弾むような口調で、田嶋さんは熱く語ってくれた。
「この村の発想のひとつは“生涯現役”で、お互いに死ぬまで働くことにあるんです。
しかもどんな些細な仕事でも無償ではなく、きちんとお金を支払うシステムを作ります。
そのために村だけで通用する貨幣形態として、“エコ・マネー”の導入を考えています。
つまり肩をたたいてあげたら、その見返りに大根1本買えるというようなシステムですね。
今の社会は、生活手段を持たない主婦をタダ働きのボランティアとして利用していますが、これは女性や子ども、老人の地位を低くしている元凶です。
だから誰もが何らかの力をお互いのために出し合うシステムを作りたいわけです」。
現在40世帯余りが集まり、今年4月に着工の予定だそうだ。

◎母の言葉が、私のフェミニズムの原点に

では田嶋さん自身は、いつフェミニズム思想と巡り合ったのだろうか。
戦争中、田嶋さん母娘は満州から引き揚げて父の実家へ居候の身となったが、食事のおかずにも差別を受け、他人に養ってもらう屈辱感をその小さな胸に刻みつけたという。
その後、脊椎カリエスにかかり寝たきりになり、闘病を続けながらも厳しく娘をしつけたその気性の激しいお母さんが、台所で洗い物をしながら泣いているのを見た。
「母は、『どうしてお母さんだけが、朝昼晩、こうやって茶碗のケツ、なでてなきゃ いけないの』といって泣いてたんですよ。
でもその時少女だった私は既に男社会の 価値観を内面化していたから、母の言葉の意味がわからなかったの。
『どうして?だって、お母さんてご飯作ってお茶碗洗う人でしょ。だから、元気なときはお母さんが洗うのが当然でしょ』って。
でも、私は母のその言葉が忘れられなかった。
それが私のフェミニズムの原点です」。
「母親が自分の人生をきちんと生きてないと、その抑圧の毒は弱い子どもに向かい、その子はまた別の弱い子をいじめる。いじめの根は家庭にあるんですね。女を妻役や母役に押しこめてはいけない。女も人間として生きたいように生きることが大事です」。
だが、この10年間で日本の女性の状況は大きく変化した。
「今まで女には無理だと思われていた分野に女性が進出しています。
まだ『女性初の』という冠詞がついていますが、そのうち女性がいることが当たり前の世の中になるでしょう。
一昨年は念願の男女共同参画社会基本法ができて、大阪元府知事の事件などセクハラ裁判にも勝利し、ストーカー規制の法律もできました。
今年1月の通常国会では『DV(家庭内暴力)防止法』が法案上程され、女性たちが頑張ってきたことが実を結び始めています」。

◎介護は“個立”による“相互扶助”になる

日本の在宅介護については、「専業主婦がいるから可能なのであって、これからの時代には無理ですね」という見方だ。
「日本は主婦の無償労働に頼らないで、国がきちんとするべき。老人ホームも、公共のものはお粗末ですよ。イギリスでは20年前に、もう2DKの個室が普通でした。台所も付いて、入居者は専門家のケアを受け、娘や息子は週に1回訪れて話をしたり、 外へ連れ出してあげたりする。日本ではまだ老人ホームに入れるのにメンツにこだわっていますが、こういう形になれば、最後まで家族ともいい関係でいられるのではないでしょうか」。

『友だち村』について具体的に説明すると、
(1)介護居室タイプの“シニアハウス”や 個性を尊重したグループハウス
(2)マンションタイプでバリアフリーの“ライフハウス”(約40室)
(3)会員制のホテルタイプの短期滞在施設(ライフハウス内に約10室)
の3つを中心に、一戸建て住宅も可能。
また入居者や地域住民が利用できるコミュニ ティ(共有施設)・ウーマンズハウス・農園等も整備されている。
例えば母親の体調が悪くなったらシニアハウスに入ってプロの介護を受け、娘はライフハウスに入って ここから仕事に行き、朝と仕事帰りにシニアハウスに寄って母親と語らう、というシステムである。

「女は今まで、母・妻・娘という役割で生きてきましたが、これからは対等な“個立” した人が寄り集まって自立しながら相互扶助をし、死ぬまで成長し合いながら、家族 があってもなくても安心して老後を迎えられる社会にしなければいけません」。
そう語る田嶋さんの現在の構想は、子どもと女性のためのシェルター作りだそうだ。