糸川 英夫博士 組織工学研究所所長

1993年08月-月刊:介護ジャーナル掲載より(当時81歳)

本業と違う「夢」の実現にわずかずつかけ続けていれば、ボケはこない

天才肌の学者として、世界的に名の知れた糸川英夫博士。
その活動は、学問研究領域にとどまらず、クラシックバレイ、チェロなど芸術方面にもその多芸、多才ぶりを発揮している。まさしく、マルチ人間である。
その糸川氏が、昨年、45年間かかって、完全手づくりのバイオリンを完成させ、演奏会も開いた。
完成までの45年間を綴ったバイオリン物語「八十歳のアリア」(ネスコ刊)もまた好評だ。この7月、81歳を迎えた糸川博士の語る、高齢者観と糸川流ボケない方法。

◎人間の能力は年齢と比例する

「私の年齢は、一般では、高齢者に入るのでしょうね。
でも、仕事のスピードは遅くなっていないし、本を一冊書くのだって、去年の倍の早さでできる。老人問題なんて、関心ないね。
65歳を過ぎて落ちるのは、セックスの能力だけですよ」あふれる能力を存分に発揮して生きている糸川氏らしいユニークな老齢論である。
農業主体の時代は、年をとって、筋力が衰えると、仕事はできなくなるが、現代は、その部分は、機械が代わってくれる。
労働だけが人間の仕事じゃない。
知能でやる仕事は年齢に関係なく、むしろ、人間の能力は、年齢と比例するといえる。
だから昔の高齢者論は変えなければいけないと言うのである。
「老人問題をテーマにした講演でも、私がこんなことを言うので、二度とあんな講師は呼ぶなと言われるんですよ」糸川氏は、何歳までも働けと言っているのでなく、働けるというのである。で、ご本人の働ける年齢をしいて決めれば、100歳。
100歳までは、現役で働き、残り5年くらいは、“おじいちゃん“として生きるそうだ。

◎「98プラス2」方式で生きる

人間の能力を高めながら生きるには、ノウハウ、つまり方法論があるという。
以下が、糸川流ボケない法。
98プラス2方式。
すなわち、1日の時間の98パーセントは、今日・明日、つまり、身すぎ世すぎのために使う。あとの2パーセントは、10年または20年先のために使うというのである。
糸川氏自身、その2パーセントで、45年をかけて、完全手づくりでバイオリンを完成させた。
これまでのものとまったく違う内部構造で、目下、新案特許出願中である。
別のことばでいえば、毎日の本業のほかに、もうひとつのライフワークを持つこと。
本業に全力投球しないで、ほんの数パーセントの時間を長期間にわたって、本業と全く違う「夢」の実現にかけること、というわけだ。
また、新聞1枚の厚さは、目立つものではない。
しかし、1日1枚を5年、10年重ね続けていけば、いつか数メートルにもなってしまう。
1日のうちの100分の2というチリもつもれば、いつか山となる。
山となって、人目にふれるようになるまで、人は、人生の目標を失うことはない。
これが糸川流ボケ対策のセオリーだ。

◎ベドウィンの法則の定立が目標

「死ぬまで目標がハッキリあり、使命感がいつも存在しているから、ボケているひまなどない」という糸川氏の次なる最大の目標は、「ベドウィンの法則」を立てること。
ベドウィンとは、砂漠に住む特別種族である。
3000年前から地球上に存在し、砂漠の中で、羊に草を食べさせてきた。
が砂漠化が進行してしまうという理由で、都市に定住させる政策がとられた。
その結果、大変な数の麻薬患者が出て犯罪が起き、種族が壊減しそうになっている。
つまり、人類が生きる道にはひとつの法則性があり、それをゆがめることは、歴史を逆行させることだと。
この法則にてらすと、現在、国連などが、カンボジアやセルビア、ユーゴスラビア、ソマリアなどでやっていることは間違っているとも。
「米、英、日の感度の高い科学者、ビジネスマンたちと、今年6人委員会を作りました。一緒にこの法則を完成させようとしているんですが、それが完成し認められるようになると、ニュートンの法則くらいになるかもしれないものですよ」時間をかけ、世界中の小数民族を訪ね歩いたからこそ、出てくる考え。
若い人にはむしろ出来ないこと。
重ねた経験と、遠くまで出かけて行けるゆとりから生まれてくるものだというのだ。