チャック・ウィルソンさん(株)チャックウィルソンエンタープライズ 代表取締役

2003年08月-月刊:介護ジャーナル掲載より(当時56歳)

健康は正しい知識で自ら守るもの

テレビでは強面の印象のあるチャックさんだが、素顔は物静かなナイスガイだ。
パソコンとオートバイと猫を愛し、健康カウンセリングに講演にと精力的な日々を送っている。
日本人の死亡原因の60%を占める生活習慣病。そのうち高血圧症、高脂血症、糖尿病には生活習慣病指導管理料が適用されるようになった。
高齢化により予防医学へと大きく転換している現在、チャックさんが先陣を切って取り組む健康づくりの意義はますます大きい。

◎フィットネスクラブのさきがけに

アメリカ・ボストン生まれのチャックさんは16歳で柔道を始め、1970年に来日して同志社大学に柔道留学をした。「護身術のつもりで習い始めたんですが、自分の柔道が本物かどうか日本で試してみたいと思って。それ以来、ずっと日本にいますよ」。
そして得意の柔道で全米オリンピック候補選手に選ばれたほかにも、全日本パワーリフティングチャンピオンになったり関東相撲大会で敢闘賞を獲得したりと、スポーツでの素晴らしい才能を次々と開花させていった。
そのチャックさんが来日してから3年後、同じアメリカ人であるハッチさんと運命的な出逢いをすることに。
「東京に出て来た時に体育センターの共同経営者を探していたハッチさんと知り合い、最初は現場指導員を、ハッチさんがハワイに移ってからは経理も一生懸命学び12年間経営しました」。
まさにフィットネスクラブのはしりだが、現在と違って開設当時は筋力トレーニング中心で、健康診断に基づいて栄養面や生活面のアドバイスを行うという簡単なメニューだったそうだ。
それに物足りなさを覚えていたチャックさんだが、「毎年1回ハワイで研修会をやるんですよ。
そんな時にエアロビクスを見て、これは日本に合うなって思って」。なんと日本にエアロビクスを紹介した中のひとりが、チャックさんだったのだ!1978年のことだった。

◎テレビで健康づくりをアピール

その後もハッチさんと共同で香港、アメリカのテキサス州ダラス、オーストラリアのブリスベンなどでフィットネスセンターをオープンし、また自らの会社も設立するなど実業家としての手腕を発揮していった。
「テレビに出始めたのは約20年前。日本語を話せる外国人が少なかった頃です。だけどテレビに出るのはあくまで自分の本職を生かす手段で、こういうスポーツセンターをやってますというテロップが流れれば十分と思ってたんです。正しい健康法と体力づくりを広めるいい機会じゃないかなと」。
ちょうど世の中はバブル景気に沸いていた。
「あの頃は割と簡単に、『チャックさん、これだけお金があるからスポーツセンター作りを手伝ってくれませんか』と頼まれ、立ち上げのアドバイスをしてました」。
こうして全国に、数百ヵ所ものスポーツセンターが続々と建てられた。
ところがバブルがはじけると、一転して外部の人は雇わないという冷たい状況になってしまったという。
しかしチャックさんはくじけなかった。全国の病院や健診センターを見て回り、これからのニーズは中高年にありと、的確に時代の流れを読みとっていたのだ。

50代以上の人にとってフィットネスクラブの敷居は高い。それに生活習慣病や関節炎があると、指導も難しい。
そこで医師との連携がとれる新宿ヒロオカクリニックの運動療法室や、牛久愛和総合病院の疾病予防施設で指導を始めた。発想の勝利だった。

◎国民の健康が国を左右する

「お客さんには最初にカウンセリングを行い、『あなたは運動だけやっても生活改善をしないと効果が出ませんよ』などはっきりいいます。また坐骨神経痛があるけど運動をしたいという人には、『整形外科の先生に診てもらってからにしましょう』と伝えます。
まず専門医に健康診断や痛みの原因除去をしてもらい、次に栄養のアドバイスや筋肉強化をするのが私たちの役割です。
病院には食事から生活形式まであらゆる情報がありますから、そういう連携の仕方が一番いいんですね。こういったことは、もう20年前から考えていたんですよ」。
高齢化社会の到来と不況が重なり、健康保険が巨額の赤字を抱えている今、国民の健康状態が国の経済状態に繋がっているとチャックさんは警告する。
「保険や国に頼るのではなくて、生活習慣病の予防は根本的に自分でやるべき。病気になっても病院に入ればいいと考えるから、健康保険が赤字になるんです。そして健康を保つには自ら正しい知識を得ること。
病気になったら近所の人や友達に相談したり怪しげな薬を飲むという安易な選択を捨て、内科なら内科、整形外科なら整形外科、運動のことなら運動の専門家にきちんと診てもらうべきですね」。
語る内容は厳しいが、「目の前で苦しんでいる人を見てられない。だから、この仕事をやってるんです」と心はどこまでも優しいチャックさん。
お客さんと一緒に自転車をこいでますよ、と笑うその顔は底抜けに明るく暖かい。