石井 好子さん シャンソン歌手

2004年05月-月刊:介護ジャーナル掲載より(当時81歳)

シャンソンに人生の愛をこめて

シャンソンが、今また熱い。カルチャー教室はどこも盛況で、コンサートも全国各地で開かれている。
シャンソン界の第一人者・石井好子さんも大忙しだ。2月(2004年)のオーケストラとの再共演、4月のチャリティーコンサートに続いて、5月は『大阪シャンソンフォリー2004』に、そして7月は今年で42回目になる『東京パリ祭』に出演する。
日本人をかくも長く魅了してやまないシャンソンはまた、“石井好子という人生の賛歌”そのものでもあるのだ。

◎魅惑のシャンソン・ブーム到来

パリ、石畳、街路樹、カフェ…。フランスの香りあふれるシャンソンの意味は、“歌”そのもので、起源は中世の吟遊詩人にまでさかのぼる。
ルネサンス、フランス革命を経て、1900年代初頭に世界中で流行した。ちなみに日本初の上演は、1927年(昭和2年)の『モン・パリ』である。
そのシャンソンとの出逢いについて「芸大でドイツ歌曲を勉強していたときに『聞かせてよ愛の言葉を』のレコードを聴いて、とても感動して。それでシャンソンファンになったんです」と語る。
シャンソンを歌い始めた50年頃はまだ周囲の認識も低く、歌手も石井さんや高英男さんら2、3人だけだったが、「その後フランス留学して帰ってきたら、日本がシャンソン・ブームになってたんですよ。
越路吹雪さんが宝塚をやめてシャンソンを歌い出したり、イヴェット・ジローの来日などが重なって。
それと同時にテレビが開局して、ちょうどシャンソンが使いやすかったのね。
各局すべてに、私たちは出たんです。それでシャンソンがとても広まった。54〜55年頃のことですね」 さてフランス語圏以外で最もシャンソンが好きな国民はというと、なんと日本人なのだそうだ。
それは、日本の俳句や和歌といった洗練された歌とシャンソンとは相寄るところがあるためと、石井さんはいう。「詩情というものを、私たちは持っている。
シャンソンは言葉が大切。特に中高年の女性はそこに惹かれるんですね」

◎シャンソンフォリーとパリ祭へのお誘い

フォリー(シャンソンに夢中という意味)だ。
今年(2004年)は5月15、16の両日に新大阪・メルパルクホールで『大阪シャンソンフォリー2004』を開催する。出演は会員とゲストで、最後に石井さんが歌う。
曲目については「リクエストが多いのは『愛の讃歌』や『枯葉』。できるだけ皆さんご存知の曲を選びます」ということで、今から楽しみだ。
また7月10、11の両日は東京・渋谷のNHKホールで『第42回パリ祭』を開催。出演は石井さんや芦野宏さんを始め、高英男さん、菅原洋一さん、戸川昌子さんら豪華多彩なメンバーで、司会は永六輔さん、遠藤泰子さんのお二人。
パリ祭とはフランス革命記念日(7月14日)の日本での呼び名で、63年に石井さんが催して以来、毎年歌手たちが一堂に会してシャンソンを歌う。
「だから42年前からやっている、私のライフワークとしては最も長い仕事。今年は戦前の古い歌ですがダミアの『かもめ』を歌おうと思っています」
【コンサートのお問い合わせは、シャンソンフォリーが03-3716-7630(日本シャンソン協会)、パリ祭は03-3533-1300(パリ祭実行委員会)まで】

◎健康とたゆまぬ努力が名声を支える

コンサートに備えて、体力維持の努力も欠かさない。室内歩行を30分に青竹踏み300回、腹筋体操、足首やひざのマッサージ。得意の水泳が健康作りに役立ってきたが、「今は自分で意識しないとやっていけない」。しかしぴんと伸びた背筋は、そんな不安を感じさせない。
「私はすごい幸運。その幸運とはやはり健康で、もう1つは、たゆまぬ努力。私は不器用な歌手で、それだけ悩みも多い。
だけどどんな時もやめずに続けてきたから、こうして今歌っていられるんだと思う。
やりだしてしまった以上は、あきらめないで歌うわけね」と微笑む。
80歳になった2002年に80人のオーケストラと共演し、そのDVD『80歳の交響曲』が今年2月に発売された。サブタイトルが『ROBAは一日にして成らず』とお茶目で、267枚の写真と石井さんのナレーションがつく。曲目には、一番好きなジャック・ブレルの『行かないで』も収めた。
「私はシャンソンばかり55年も歌っています。それでも飽きずにいるのは、それだけ魅力があるから。ドイツ歌曲も素晴らしいけれど歌いこなせない難しさがあって、その点ポピュラーなシャンソンは、何とか歌ってこられたんじゃないかなと」
これからシャンソンを始める人には、「ぜひたくさんの曲を聴いてほしいのね。
中には難解な曲もあるから、1曲聴いてあまり感激しなくとも、2曲3曲4曲…と聞き続けると、そのうちにだんだんシャンソンが好きになると思いますよ」
【DVDの問い合わせは03-3533-1300(ネオ・ムスク)まで】