C.W. ニコルさん 作家(当時54歳)

1995年03月-月刊:介護ジャーナル掲載より

『美しい環境が美しい心をつくる』自然環境が人づくりにも尽力する

エコロジストで作家のC.W.ニコルさんは17歳のとき生まれ故郷のイギリスを飛び出し、北極探検の旅に出た。以来ずっと世界各地を巡り、人間と生物の調和という視点から、さまざまな提言や活動を行っている。日本在住17年。昨春からは作家活動に加えて、自然環境保護を学ぶ専門学校の副校長として新たな取り組みを始めたところだ。

アジア初の専門学校副校長に日本にもっとレーンジャーを

ニコルさんが副校長を務める東洋工学専門学校(東京)は昨春から、自然環境保護を学ぶカリキュラムをスタートさせた。2年生で生徒数120。自然環境管理コースと野生生物調査コースがある。「基本的な生態学、林学、環境アセスメント、捜索救助、無線技術、サバイバル、レーンジャー(国立公園や森林の保護管理)といったことを教えています。僕は冒険家じゃありませんし、学校も冒険学校ではありません」アジア初の試みとかで、東京本校での講義と共に、ニコルさんの住む長野県黒姫高原ではフィールドワークを存分に行っている。日本には捜索救助部隊が足りないとニコルさんは言う。「日本の国立公園のレーンジャーは150名。数年前に僕が環境庁長官にレポートを出してそれでやっと30名増えたんです。カナダには4,000人、アメリカ9,500、人イギリスは1,000人います。日本にも1,000人は必要です。常に訓練を受けながら、普段は子供に環境教育をしたり、そしていざという時は捜索チームとして集まるわけです。

公園、緑、子供、老人が街づくりのキーワード

今回の阪神大震災で壊滅的な被害を受けた神戸。復興に向けて街づくりをどう進めるべきか、ニコルさんは公園と緑をキーワードにあげる。「ロンドンなどは公園も多いし、そこに池を作ってる。いざという時その水は使えますね。木々の緑は酸素を作り出して空気をきれいにするから、空気の汚れる都会には必要です。そして公園やプラザには子供と年よりが集まってきます。これはとても大切なことで、子供を忍耐力を持って教育できるのは年よりなんですね。子供は年よりの生きがいでもある。両方を離すのは不自然なことです」カナダやエチオピアでは国立公園の公園長を務めるなど役人だったこともあるニコルさんは、車が多くて安全に歩くこともできない日本の大都会は、車の奴隷になっている。年よりと子供に街を返すべきだと、怒り心頭に達している。

21世紀に人間が危ない言行一致でお目付け役

オゾン層の破壊など自然環境の悪化が取り沙汰されて久しいが、「このままだと21世紀に人間が危ない状態になるね」とニコルさんは警告する。「きれいな水は森と山が作る。安全は公園と池が、健康は緑が作る。都会にも必要なものばかりでしょ。だから森や山、川の管理をきちんとしてほしい。そしたらつばめやトンボ、蝶々もやって来る。できるだけ多くのいろんな生物が一緒に住める状態がいいんです」環境が美しくないと人間の心も美しくならないと断言するニコルさんは、「僕は言ってることやってることをできるだけ一致させて、えらい人にガミガミ言い続けますよ」と頼もしい。

ニコルさんの作品のベスト3のひとつに「バーナード・リーチの日時計」(角川書店)があります。若かりし頃に老人ホームのお年寄りとの触れ合いを描いた作品で、是非とも読んでいただきたい力作だそうです。